9月24日(日)、愛知県で痛単車専門イベント「START UP!」が初開催された。アニメやゲームキャラクターをあしらった痛単車が一堂に会した。
参加台数は約30台。今回はその参加車両から一部をピックアップ。主催者の「写真屋のおじさん」氏にも、イベントの裏側と今後の展望を聞いた。まずは参加車両から編集部が気になった車両を紹介していこう。
ハーレーが織りなすアイドルの世界 <アイドルマスター・シンデレラカールズ 佐藤心&高垣楓仕様>
ハーレーダビッドソンのナイトロッドスペシャルをベースにした痛単車だ。オーナーはナイトロッド氏。「アイドルマスター・シンデレラガールズ」の佐藤心と高垣楓をあしらったこの車両は、細部まで凝ったデザインが特徴的だ。
オーナーは「ヘッドライトやハンドル、ボディなど、好みのパーツを贅沢に使用しました」と語る。可変式マフラーの音の変化を「アイドル2人の歌声のよう」と表現する。ラッピングは痛車ステッカー製作専門店に依頼し、シンデレラガールズらしい要素を随所に盛り込んだという。
見どころポイントは、絵師さんが描いた美麗なイラストだという。アイドル2人の魅力的な表情が車体を彩り、ハンドル下にはイラストの全体像もさりげなく配置。ラジエーターカバーには「シンデレラガールズ」を象徴するガラスの靴をあしらい、細部まで丁寧に作り込まれている。
こだわりは車体だけでなく、シートにも及ぶ。FRP板を芯にウレタンを巻き、その上から革を張り上げた贅沢な仕様だ。オーナーの好みで黒のシートの上から青色の革を張り、ブランドロゴとともに好みのステッチを入れるなど、細部まで妥協のない仕上がりとなっている。
タンクの背面には属性マークも「ボディを黒く塗装して組み上げた時に、この穴にマークを入れたら面白いのでは」というアイデアから生まれた独創的なデザインだ。
自作ペイントが魅せる芸術性 <ホロライブ ラプラス・ダークネス仕様>
注目を集めたもう一台は、HONDA CBR1000RR SP’19(SC77)をベースにした痛単車だ。Vtuber「hololive」6期生、秘密結社holoXの総帥ラプラス・ダークネスをモチーフにした本車両は、オーナーのかむ氏による自作ペイントが最大の特徴となっている。
デザインから施工まで全てを自作したというオーナーは、「半年以上かけて修正を重ね、ラプラス・ダークネスの通常衣装をイメージしつつ、スーパースポーツらしさも表現しました」と語る。施工過程では、カッティングの多色張りを参考に、カッティングとペイントを組み合わせるという独自の手法を採用。レイヤー数は実に104に及び、カットラインのデータ作成からプロッター出力、シート貼付け、塗装まで、完成までに1年を要したという。
「ペイントの可能性を追求した結果が、この一台に結実しました」とオーナー。特に見てほしいのは、ペイント特有の質感と表情だ。カッティングシートのみでは表現しきれない微妙な色の変化や、塗装ならではの深みが、車体全体に独特の雰囲気を醸し出している。
主催者が語る、START UP!の原点
主催者の写真屋のおじさん氏は開催の理由について「自身の痛単車体験から得た気づきを、より多くの人と共有したかった」と語る。バイク界隈ではマイナーな存在感だった痛単車だが、近年のSNS普及により徐々に認知度が高まっている。「痛車界で培われた技術やノウハウを、2輪の世界にも広げていきたい」という思いが、このイベント開催につながったという。
痛単車製作には4輪とは異なる技術的課題がある。例えば、曲面の多いボディへのラッピングや、走行時の振動対策などだ。START UP!を通じて、これらの技術的ノウハウを共有し、業界全体のレベルアップにつなげたい考えだ。
主催者の「写真屋のおじさん」氏は「痛車界で培われた技術を、2輪の世界にも広げたい」と語る。痛単車製作には4輪とは異なる技術的課題があるという。例えば、曲面の多いボディへのラッピングや、走行時の振動対策などだ。
今後の展望に関して
今後、START UP!は年1〜2回の定期開催を目指す。「将来的には屋内展示も実現させたい」と写真屋のおじさん氏。天候に左右されず、より繊細な作品を展示できる環境整備に意欲を見せる。
「痛単車は、バイク文化に新たなユーザー層を呼び込む可能性があります」と写真屋のおじさん氏は指摘。アニメやゲームファンがバイクに興味を持つきっかけになるかもしれない。「バイク業界全体の活性化にもつながれば」と展望を語った。
痛単車カルチャーは、まだ黎明期にある。START UP!の今後の展開が、この独特な文化の行方を左右するかもしれない。
文:アオニン
写真:成田白